2016年2月7日に、北朝鮮は人工衛星の打ち上げと称して、弾道ミサイルを発射しました。
この北朝鮮による弾道ミサイル発射は、「弾道ミサイル技術を使った全ての発射」を禁じた国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議や、日朝平壌宣言でのミサイル発射の凍結延長に、明白に違反しています。
にもかかわらず、北朝鮮がこのミサイル打ち上げを強行した背景には何か目的や理由があるのでしょうか。
又、このミサイル打ち上げは、拉致問題に対して何らかの影響があるのでしょうか。
そこで今回は、北朝鮮の弾道ミサイル発射の目的や理由と、拉致問題との関係などを見ていきましょう。
北朝鮮のミサイル発射の目的や理由は?
今回の弾道ミサイル発射のついて、北朝鮮は「これは弾道ミサイルの発射ではなく、人工衛星の打ち上げである」と目的や理由に対して説明しています。
出典:http://blog.livedoor.jp/zzcj/archives/51805580.html
この人工衛星打ち上げという口実は、これまでにも何度か使われており、1998年のテポドン1号でも、人工衛星「光明星1号」を打ち上げたと主張しています。
2009年のテポドン2号でも、人工衛星「光明星2号」を打ち上げ、地球の周回軌道への投入に成功したと称していますが、地球の周回軌道ではこの「人工衛星」は確認されていません。
その後2012年4月、2012年12月と立て続けにミサイルを打ち上げていて、全て人工衛星の打ち上げだと強弁していますが、これまでの所軌道上で北朝鮮の人工衛星が確認されたことは、一度もありません。
しかし、今回の発射では、衛星は軌道に乗ったという説もありますが、これも未確認情報です。
それでは何故北朝鮮は、国際決議や国際世論に反してまで、ミサイルの打ち上げを強行するのでしょうか?
ひとつにはアメリカとの直接協議を行いたいという、北朝鮮の強い希望があります。
アメリカの中心部まで到達するミサイルを持つことによって、アメリカに脅威を感じさせ、アメリカをその協議の場に引きずり出したいというのが、北朝鮮の狙いでしょう。
もうひとつは、そのミサイルの技術或いはミサイルそのものを、中東(イランなど)に売り込みたいという、目的があるのではないかというものです。
北朝鮮の外貨状況は極めて危機的な状態にあり、しかも日本の制裁処置強化により、日本との輸出入は勿論、日本からの送金さえ禁じられています。
なんとしても外貨が欲しいという気持ちは強い筈ですので目的や理由として考えられるのです。
その外貨稼ぎのための、技術を誇示するデモンストレーションとして、弾道ミサイルを打ち上げた、という見方があるというわけです。
ミサイル打ち上げなのか衛星打ち上げなのかはさておき、イランやサウジ、イラクやトルコなど、紛争を抱えているる国々に売り込むことができれば、北朝鮮の外貨事情は一変するでしょう。
少しばかり穿ちすぎた見方かも知れませんが、ある程度の説得力はあるのではないでしょうか。
北朝鮮のミサイル発射は拉致問題と関係がある?
そして今回の北朝鮮のミサイル発射を強行した理由は拉致問題と関係があるのではないかと言われました。
出典:http://www.city.sakura.lg.jp/0000009462.html
この今回のミサイル打ち上げに対して、日本は独自の制裁処置を強化するという対応をとりました。
今回の日本独自の制裁処置としては、人の往来の規制(北朝鮮籍者の入国の原則禁止や、北朝鮮船舶の乗り組み員の上陸禁止など)、全ての北朝鮮船舶の入港禁止、北朝鮮への支払停止、資産凍結の対象の拡大などがあります。
今回のこの制裁処置は、日本人拉致被害者再調査の機関である「特別調査委員会」の設置以前のものと、ほぼ同じ内容です。
つまり、「特別調査委員会」の設置以前の制裁処置の状態に戻ったというわけですね。
そして北朝鮮のミサイル発射に対する日本の制裁処置強化に対して、北朝鮮は待ってましたと言わんばかりに、日本人拉致被害者再調査の機関である「特別調査委員会」の解体と、再調査中止を表明したのです。
北朝鮮はこの調査中止の理由として、「制裁強化決定により、安倍政権が自らストックホルム合意破棄を公言した」と主張しています。
(注:ストックホルム合意とは、北朝鮮が拉致被害者の再調査を行う代わりに、日本が制裁の一部を解除するという内容のものです。)
これまたおかしな言い分ですね。
日本が制裁処置の強化をしたのは、北朝鮮の「ミサイル打ち上げ」に対してであって、拉致問題とはなんの関連もありません。
それに第一、2014年7月の拉致被害者の再調査開始以後、北朝鮮からは調査については、全く何も発表がないままなのです。
当初の約束ではおよそ1年を目処として、調査の内容を報告する筈なのに、その目途を遙かに過ぎた現在に至っても、まるで音沙汰なしです。
私を含め大半の日本人は、日本人拉致被害者再調査の機関である「特別調査委員会」の設置で、「今度は北朝鮮は本気で調査をやるつもりらしい。 これで拉致問題にも幾ばくかの進展があるのではないか。」という、淡い期待を持ったと思います。
しかしその期待は完全に裏切られました。
推測ですが、2014年の時点で、北朝鮮には今回のミサイル打ち上げは、スケジュールに織り込み済みだった筈です。
ミサイルの打ち上げのような大がかりな事業が、2年前に決められていない筈がないのです。
恐らくはミサイル打ち上げは、それより遙か以前から計画されていたことと思います。
ということは、「北朝鮮はこのミサイル打ち上げによる、日本の制裁強化は完全に予測していた」ということになります。
となると・・・
今回の拉致問題再調査中止通告は、予定通りの行動ということになります。
拉致問題調査中止に、格好の言いがかりができたわけです。
拉致事件の調査を約束した時点で、そもそも北朝鮮はまともに調査する意志はなかったのです。
拉致被害者の方々には失礼な言い方ではありますが、北朝鮮にとって、拉致被害者の存在は最後の大きな切り札です。
これを切ってしまえば、残るカードでこれに匹敵するものはありません。
そう簡単にこの切り札を使うわけにはいかないのです。
そこへ「予想通り日本は制裁強化をした」ので、北朝鮮は「予定通り拉致問題再調査の中止を通告」したというわけです。
これに対して、日本は国際協調という枷があるため、再度制裁の緩和という手を使うことはできません。
こうして北朝鮮は当分の間、拉致カードという悪辣な人質外交の手段を確保できたわけです。
北朝鮮がミサイルを発射させた目的や理由としても拉致問題が大きく関わっていました。
まとめ
北朝鮮がミサイルを撃つ目的や理由が、直接拉致問題のためということではないでしょう。
北朝鮮にとっては、もっと切実な問題(対アメリカと外貨事情)があるからです。
しかし、今回のミサイル打ち上げでは、拉致問題調査中止という、渡りに舟の意味合いもあったわけです。
それを考えると、暗然とした気持ちになってしまいますね。
以上で、「北朝鮮がミサイルを撃つ目的や理由は?拉致問題と関係がある?」を終わりますが、後味の悪い事件ではありました。